学びの生産者

ここでの「仕事を通じて学ぶ」というのは、専門書を読んだり、◯◯スキル講座のような研修に参加したりするという意味合いとは少し違います。仕事をしながら上司や先輩からただ正解を教わるだけという意味でもありません。

仕事をやりながら、その仕事の中から学びを自分で見つけ出したり、つくり出したりすることです。正解を他所(本や研修、上司や先輩など)から仕入れるのではなく自分で生み出す。仕事の中での学習を消費者的な姿勢ではなく、生産者的な姿勢でとらえます。

自然と色々な所に目が行き届き、あれこれ気づき、コツをつかむのが早く、仕事の品質をどんどん高めることができる人。いわゆる「学びの生産者」という言葉を体現しているような人が、どんな職場にも一人くらいいます。

そういう人のいる職場では、その人が編み出したやり方(ちょっとした手順や注意点から資料の書式まで様々)が、いつの間にかマネされて、部署の標準的なやり方として定着していることもあります。

ですが、いきなりその人のマネをしなさいと言われても、ふつうの人は困ってしまいます。そういうタイプの人が上司になるとさらに大変です。きっと部下を見てもどかしくなり、「もっと色々なことに気づかないと」とか「意識を高く持ってやれ」とか「視野を拡げて」と口を挟むのですが、言われたほうはけっこう辛い。

「そりゃそうしたいけど、具体的にどうすればいいの?」としか言えません。いいえ、それすら言えず、お互いに苦しくなってしまうだけです。

 

必要なのは、より解像度の高い言葉です。

「気づく」とか「意識を高く」とか「PDCA」などのような抽象的な言葉や概念ではなく、もっと具体的に「仕事を通じて学ぶ」ということを説明できて、自分自身の学び方を点検し、高めていくための手がかりになるような言葉。

そのような言葉さえ見つかれば、仕事を通じて学ぶということの巧拙は「素質」や「センス」といった類のものではなく、誰でも少しずつ上達させることのできる「技術」として扱うことができるようになります。

より解像度の高い言葉で「仕事を通じた学び方」を説明するために、多くの企業や専門家の力を借りました。インタビューや社内研修などを通じて少しずつ検証を積み重ね、整理していきました。

たとえば、

「同じ失敗を繰り返しがちな人」がやっていなくて、「失敗をなかなか繰り返さない人」がやっていることは何か?

「せっかくの成功も“まぐれ”で終わってしまう人」はやっていなくて、「一度成功した事を高い確率で再現できる人」がやっていることは何か?

「これまでとは少々タイプの異なる仕事を任された途端に困り果ててしまう人」はやっていなくて、「未経験の仕事でも過去の経験をうまく活かして何とかできてしまう人」がやっていることは何か?

そして、仕事をやりながら「より良いやり方」をつくりだせる人は、何をやっているのか?

ここでいう「より良いやり方」とは、決して大げさものではなく、たとえば以下のようなものも含まれます。

・記録用紙に項目を1つ付け加えたことで、調査ミスをぐっと減らすことができた

・説明の順番を少し変えてみることで、お客様に商品の良さが伝わりやすくなった

・事前に◯◯について会話しておくことで、資料作成時間を縮めることができた

このようなやり方を、どのようにして編み出したのか。編み出すきっかけとなった「発見」があったはずです。いつ、どうやって発見したのか。なぜ、そんな所に以前から目をつけていたのか。

業種や職種や役職などに関わらず、上述の「学びの生産者」のような人たちの共通点が次第に浮かび上がってきました。それは仕事の最中よりも、仕事の「前後」に多く現れました。

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