仕事を「研究的」に取り組む

ここまでのまとめ

仕事のやり方をより良いものにしていく。
うまくできたことは繰り返し、失敗は減らしていく。

そのためには、なぜうまくできたのか・できなかったのかを後できっちり確認しなければいけないのですが、そもそも「うまくできた/できないをチェックする基準」がわからなければ、確認しようがありません。

ですから、仕事に取り掛かる前に、どのようにやるか手段を考える前に、どのような状態になればOKなのか(ゴールイメージ)を明確にしないといけないということをこれまでのトピックで説明してきました。

チェックポイントが多いと、それだけ後で気づくことも増えるということもお伝えしました。「今のやり方だとこの程度の品質はクリアできるけれど、上のレベルまで持っていくにはもう少し工夫をしないと時間が足りないな」というようなことに確実に気づくためには、“松竹梅”のような複数レベルのゴールイメージをあらかじめ設定しておかなければなりません。

「ステップ1と3は順調だったけれど、ステップ2で苦労したのはどうしてだろう?」というようなことを考えるためには、ステップごとの中間ゴールイメージをあらかじめ設定しておかなければなりません。

「正しい方向を目指して仕事を進めるため」「発注者の期待に応えるため」「途中で間違った方向に進んでしまった時に早めに軌道修正するため」ということを考えると、ゴールイメージの明確化・すり合わせは、仕事から学べることを増やすという事以前に、仕事を確実に進めるために行う当たり前の事だといえます。当たり前の事をやっていれば、自然に発見も得られるということです。

さてここから先は、当たり前をクリアした上での発展編です。
目の前の仕事をちゃんとやることに加えて、さらに積極的に「発見」をつかみにいくためにはどうするか? 普通の仕事を発見の喜びに満ちた機会に変えるような、仕事の面白がり方について考えていきます。

本書の初めにご紹介した、仕事を通じて学ぶことに長けている「学びの生産者」たちは、どうしてそんなに器用に仕事のやり方をバージョンアップできるのだろう。次々と解決のアイデアを思いつくのだろう。取材を重ねてわかってきたことは、彼らは目の前の仕事を「研究的に取り組むのが上手だ」ということでした。

解決策を決めつけない

「研究的に取り組む」ということをもう少し詳しく説明します。
学びの“生産者”という言い方をすると、アイデアがどんどん湧き出てくるというイメージを持つかもしれませんが、実際は少し違います。「きっとこうだろう」という、解決策やアイデアの引き出しをたくさん持っているわけでもありません。

むしろ逆でした。「きっとこうだろう」と簡単に決めつけない。決めつける前に、それぞれの仕事の「実態」をしっかり見る。それが彼らの共通点でした。よくよく考えてみれば、実態がよくわからないうちに解決策を決めつけてもしょうがないというのは当然の事に思えます。

病院にたとえるとわかりやすいでしょう。患者さんが「お腹のあたりが痛い」と訪ねてきたら、医師は「どの辺が特に痛いですか? どんなふうに痛いですか? キリキリ痛いですか、それともチクッとしますか?」というように問診をします。体温の計測、触診、血液検査、レントゲン検査などの診察もします。そうやって実態をよく理解した上で、診断を下します。

実態を見ずに解決策を決めつけるというのは、問診も診察も行わずにいきなり「胃炎ですね」と診断するのと同じです。そんな病院があったらすぐ潰れます。ですが仕事の場面だと、こういうことは結構多いのです。実態をしっかり調べない怠け者が多いというのではなくて、先に解決策を思いついてしまうのが良くないようです。

私たちには、解決策を思いつくと実態を知ろうとしなくなるという悪いクセがあります。最近子供がゲームばかりやっていることが気に入らない親は、テストの点数が下がったのを知った途端に「ゲームのせいだ」と取り上げようとします。“どの教科が、どのくらい下がったのか”を知ろうとする前に。

売上の伸びが急に鈍くなったことを知った営業部長は、すぐさま「訪問件数が足りないからだ」と喝を入れます。どの部署の、どの製品の売上が、どのようなプロセスを経て鈍くなったのかを確かめる前に。

決めつけずに実態をきちんと見る。これが「研究的に仕事に取り組む」ための出発点です。

ただし、あれこれ実態を調べる時間を十分に確保するのは簡単ではありません。私たちに求められているのは、まず目の前の仕事を期限内に完了させることです。納期や発注者の期待を無視して自分がやりたいことだけやっている人に、「学び」とか「研究」とか言う資格はありません。ここでいう「研究的に仕事を取り組む」とは、仕事から一旦離れてやり方をじっくり考えるという意味ではなく、あくまで仕事をやりながら、役目を果たしながら、その過程の中で学ぶということです。

したがって、仕事を研究的に取り組む時の本当の課題は「実態をあらゆる方面から細かく調べる時間など無い現実の中で、どうやって『より良いやり方』のヒントになりそうな発見の数を上手に増やすか」です。

学びの生産者たちが、“生産者”たるゆえんがここにあります。

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